2025年03月19日

老人の故郷

町内にあった集会所が
また一つなくなった
俺のゆくところも
またひとつ少なくなった

世の流れに遅れて生きて行くと
ろくなことはない
まじめなこころがヒネタこころに
容易に移し変えられ
ヒネタこころは
ヒネタ言葉になって地上に顔を出す
蝉には悪いが
まるで蝉のように簡単に穴から出てくる

夏は蝉が生まれ蝉が死ぬ時だ
海の上なら肉体の始末もやりやすいだろう
アサギマダラよ
お前はいい時に海を渡る
孤独はきついが
老人が死の淵に立つより
やさしいだろう
老人は故郷への扉を固く閉じられ
帰ろうに帰れないのだよ
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posted by kanda minoru at 15:08| Comment(0) | 現代詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おちこぼれ老人

老人の墜ちこぼれ老人が
肩を尖がらせて
稲田の細道を歩いている
そのうちひとりは
最後の日まで
俺は詩を書く、
あるいは
詩を書く身でありたいと
内心思っている

角を曲がって
四人の肩もそろって左に曲がった

「オーイ、ヨモギを踏んだぞ」
誰かが大声で叫んだ
「ヨモギをテーマに詩を書かないか」
詩を書いている老人は何も返答しなかった
あとで聞いたのだが
喉元を駆け上ってく詩の言葉が
無かったらしい
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posted by kanda minoru at 14:40| Comment(0) | 現代詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月13日

胸のあたり

私の胸のあたり
そこは女性であると
丸い乳房のあるあたりだが
そこから一直線に伸びて
私という人の形をつくる

採血のために
伸ばした右腕の先の
5本の指の花びら
きりっと遠くを見つめているが
そんな甘いもんじゃあない
生きる線はいつもあとからついてくる
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posted by kanda minoru at 11:47| Comment(0) | 現代詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする